誰もいない自宅に戻り、逸る気持ちを押さえながら私は携帯を取り出して渡された紙に書かれていた番号にかけてみた。


プルルルル プルルルル


無機質な呼び出し音が数秒流れ、そしてカチッと音が変わった。

「あっ!あのっ」

『留守番電話サービスに接続します。ピーッという発信音の後に──』

(留守電!)

私は慌てて通話終了ボタンを押した。

「あっ!切っちゃったっ」

あまりにもテンパっていた私は留守電にメッセージを残す事を忘れてしまっていた。

「ば、馬鹿ぁ~なんで切っちゃうのよ~~」

私は少し呼吸を落ち着かせ、もう一度電話をかけて留守電にメッセージを残そうと思った。

再び携帯を取り、ボタンを押そうとした瞬間

チラリラリィィィ~ン♪

「!」

いきなり携帯が鳴った。

慌てた私だったけれど、画面に記されていた番号が今かけたばかりのものだった事から少し震えている指先で通話ボタンを押した。

「も、もしもし?」

『もしもし?あの、今この番号にかけましたよね?』

「! いっちゃん?!」

其れは決して聞き間違える事のない声。

小さい時から慣れ親しんだ好きな人の声だった。

『あ、涙花?涙花なのか』

「う、うん、そう私だよ、先刻おばさんからこの番号教えてもらって」

『そっか、早速かけてくれたんだな。ありがとう』

「…いっちゃん」


──実に五年振りの会話


最後に話した時と変わらない優しげな物云いと涼しげな声に胸の奥底に押し込めていた恋心が一気に浮上して来た。

『えっ、どうした、涙花』

「うっ…ううん…なん、なんでもな、い…っ」

込み上げて来る感情が涙になって溢れて来る。

其れを悟られない様に我慢するのだけれど…

『泣いてんのか?』

「…っ」

『ごめんな、ずっと連絡しなくて』

「…」

『本当にごめん』

「…いっちゃぁん」

私は堪え切れずに電話口だというのにわんわん泣き出してしまった。

ちゃんといっちゃんと話そうと思っても止む事のない嗚咽は私から言葉を奪ってしまって、まともな会話にはならなかった。

そんなむせび泣く私の事をいっちゃんは電話の向こうからジッと待っててくれた。


荒ぶった気持ちが徐々に落ち着きを取り戻し、私はいっちゃんにみっともないものを聞かせてごめんねと謝った。

『いいんだ、涙花が泣く気持ち、すごく解るから──本当にごめんな』

「うん…もう大丈夫だよ」

やっと私は本来の調子で話をする事が出来る様になった。

其処からいっちゃんは少しずつ今まで連絡出来なかった理由や私にお願いしたい事などを簡単に話してくれたのだった。

蒼い樹が薫る
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