私が住んでいるのは物凄い田舎だ。

四方八方を山に囲まれていて、バスは二時間に1本あるかないか。

幼稚園はなく、小学校と中学校、そして高校が其々1校ずつ。

当然人口が少ないから学校ではみんなが顔見知り。


──という感じの狭い環境で私は13年間生きて来た






「えっ、いっちゃん学校やめるの?!」
「あぁ──決めたんだ」

其のあまりにも突然の話に私はビックリした。


私が『いっちゃん』と呼んで慕っている彼は喜多野 樹(キタノ イツキ)

近所に住む5歳年上の幼馴染みだ。

ひとりっ子の私にとっていっちゃんはお兄ちゃんみたいな存在で、ちいさな時からいつも一緒に行動していた頼もしい男の子だった。


「でも…あと半年で高校卒業なんでしょう?卒業してからだって」
「其れじゃ遅いんだ!」
「!」
「折角最終選考まで残ったんだ。俺はこの機会を絶対逃したくないんだ!」
「いっちゃん…」

いっちゃんはこんな田舎にはそぐわない程の美男子だ。

昔からカッコよくて、同世代の女の子たちはみんないっちゃんの事が好きだった。

そんないっちゃんの夢は芸能人になる事だった。

其の夢を知るみんなは『樹くんなら絶対になれる!』と応援していた。

勿論私だっていっちゃんの其の夢を応援していた。

いっちゃんが私の元から遠く離れてしまう事は寂しいなと思ったけれど、いっちゃんが夢を叶えるために此処を出て行くのなら其れは仕方がない事なんだとずっと覚悟していた。

そんないっちゃんがこの度、雑誌の広告に載っていたある映画の新人俳優募集オーデションに応募して最終選考まで残ったのだ。


「凄いチャンスだと思わないか?今、この機会を逃したら俺は…俺の目指す夢には手が届かない様な気がするんだ」
「…」
「だから高校やめて直ぐにでも上京したいんだ」
「…いっちゃん」
「涙花は応援してくれるよな?俺の事」
「…」


いつかは私の元から飛び立ってしまう存在なのだと解っていた。

だっていっちゃんの光り輝く存在感はこんな田舎で埋もれていいものじゃないと子どもながらに思っていたのだから。


「涙花」
「…うん、応援する」
「! ありがとう、涙花」
「でも…寂しくなっちゃうなぁ…いっちゃんがいなくなっちゃうなんて」
「俺も寂しいよ、涙花と離れるのは」
「…」

いつも私が哀しい時にいっちゃんがやってくれる頭を優しくポンポンする仕草。

今やってもらっている其れは、いつも以上に胸が切なくなる掌の感触だった。


(黙っている方がいいんだよね…きっと)


いつかは云いたいと思っていたいっちゃんに抱いていた恋心。

だけど夢に向かって一生懸命なこんな時に云ってはダメなんだって事は中学生の私にだって解るのだ。


(バイバイ、私の初恋)


青木 涙花(アオキ ルイカ)13歳。

初めての恋はちゃんとした結末を迎える事が出来ないままに静かに散って行きました──

蒼い樹が薫る
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