目の前が真っ暗になり、意識が遠のきそうだと思った瞬間、私の意識は海斗の力強い言葉で引き戻された。

「凪子、俺に全てを話せ」
「…え」

真っ直ぐに私を見つめて、海斗はとても真剣な眼差しで云った。

「俺は凪子を裏切った康彦を赦さない。凪子のいい分を訊いて其れを俺から康彦に叩きつけてやる」
「海斗…」
「だからあいつに云いたい事があったら俺に全てぶちまけろ。俺が全部受け止めてやるから」
「…」

どうして海斗はこんなにいつも私の事に必死になってくれるのだろう。

思えば高校生の時から其の兆候はあった。

三年間片想いをしていた私の愚痴や戯言を海斗はいつも真剣に訊いてくれていた。

時々素っ気なく厭味や意地悪な事も云われたけれど、そういう海斗の言葉を訊くと自然と私は頑張ろうと思えたのだ。


(…海斗)


「えっ!な、凪子」
「…ふぇ」

何故か今、フラれた康彦に対する気持ちではなく、私をずっと見守って来てくれた海斗に対しての気持ちで泣けて来てしまった。


「おい、凪子、こんな処で」
「~~~だ、だってぇ」

慌てている海斗を中心に、カフェにいたお客さんの何人かが泣いている私をチラチラと見始めていた。


(恥ずかしい!涙、止めなくっちゃ)


涙を止めなくてはいけないと思えば思うほどに嗚咽が酷くなり、もう私自身で収拾がつかなくなってしまったと思った瞬間


「行くぞ」
「!」

いきなり掴まれた腕。

そして無理矢理立たせられた私の肩を抱いて歩き、会計を済ませて其のままカフェの外に出た。


「か、海斗」
「泣きたいんだろう、思いっきり泣かせてやる」
「──え」

海斗は私の手を握って、其のまま近くのパーキングに停めていた車に私を乗せた。

「…海斗の車?」
「当たり前だ」

車が発進した頃には私の涙はすっかり止まっていて、私は次々と現れる海斗の目新しい行動、仕草に目が釘付けになっていた。

高校生の時の海斗しか知らない私は車を運転している姿を物珍しげに見た。

「おい、あんまこっち見るな」
「だって…海斗が車運転しているだなんて…」
「25になってんだぜ?車ぐらい運転する。おまえだってそうだろう?」
「私は免許持ってないの」
「はぁ?今時珍しいな」
「だって…康彦が危ないからって…免許取らせてくれなくて…」
「──なんだ、其れ」
「…」

少し康彦の話をするのは厭だなと思った。

とっくにフラれているのに海斗に未練がましく思われたら厭だな、と。



車窓から見た事もない風景を見ながら訊ねた。

「ねぇ、何処に向かってるの?」
「俺の家」
「え、海斗の?」
「今のおまえは話を訊いてもらいたい状況なんだろう?そんで話したら話したで大声で泣きたくなる」
「…」
「其れが出来るのは俺の家ぐらいだと思ったから」
「…ありがとう、海斗」
「云っておくが下心はないぞ」
「うん、解ってる。海斗は私を女としては見ていないもんね」
「…」


(そう、海斗は私に対して女としての感情は持っていない)


ううん、私だけじゃなくて、女性全般において海斗は女という生き物に嫌悪していた。

其れは海斗の生い立ちに繋がる仕方がない感情だった。


(だから私たちはずっと友だちだったんだよね)


周りから良く私と海斗の事で色々云う人がいたけれど、私たちの関係はそんな周囲の噂なんて何処吹く風状態だった。

お互いが心地いい関係だったのだ。


男でも女でもない、本当の意味での友だちだったのだから──


(だけど…)


其れは高校生の時の話だ。

今、お互い25歳になった私たちに高校生の時の様な関係は通用するのだろうか?

何故かそんな事がふと頭を過った。


『云っておくが下心はないぞ』


そう云った海斗の言葉を心の奥底で寂しいと感じたのは気のせいなのだろうか──?


(海斗はまだ女に対して嫌悪しか抱かないのかな)

ぼんやりと流れる風景を眺めながらそんな事を考えていた。



やがて車は大きな建物の地下の駐車場に停められ、其のまま海斗の先導でマンション内の海斗の部屋までやって来た。

fl
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