郊外に佇むシンプルな店構えのヘアーサロン【SEA】

其処のお店のオーナー兼店長の洋子さんは44歳とは思えない美貌の持ち主だった。

若々しい姿、妖艶な雰囲気は男女共に魅了し、独身の洋子さん目当てでやって来るお客さんの7割は男性だった。

完全予約制のお店は三ヶ月先までギッシリ予約が詰まっている。


──そんな完璧な美魔女の洋子さんがまさか同性愛者で…


(よりにもよって私なんかを好きって──!)





ゴクゴクゴクッ

「…はぁ」

自宅アパートになんとか帰り着いた私はコップ一杯の水を飲み干しやっと一息ついた。

明かりを点けた部屋の中で座り込んで茫然と考える。


(…どうしよう)


十年間好きだった彼に失恋したばかりだというのに、其のタイミングで告白された相手が雇い主でもあり同性でもある洋子さんだという事に驚きを隠せない。


(洋子さん…本気、なのかな)


つい数十分前にあった出来事を反芻する。

あの時の洋子さんの表情を思い出しては、決して私をからかって云った言葉じゃないという事だけは解って…


(だから余計にどうしようって思うよ!)


勿論洋子さんの事は女としても美容師としても尊敬している。

サバサバした性格でたまに意地悪な時もあるけれど、スタッフ想いの人格者だ。

私は今のお店で働ける事が愉しくて、そして洋子さんの事も恋愛抜きでは大好きで──だからこの事で洋子さんと気まずくなって雰囲気のいいお店を辞めたくないと思った。


(本当どうしよう…何か洋子さんと気まずくならずにお店も辞めなくていいような回避策はないかな)


私はテーブルに置いてあったパソコンを起動させた。

そして何処かに今の私と同じような悩みを持った人が何かいい解決法を披露していないかと探し始めた。




カチカチとマウスをクリックする音が静かな部屋の中に響く。


(…もう2時…かぁ)

ただ闇雲に時間だけが過ぎ、今日が定休日でよかったと安堵していると、ふとメールの受信トレイに新着メールが届いているのに気が付いた。

其のままクリックして見てみると

「あっ」

発信者の名前を見て私は思わず声を上げた。

「嘘、海斗からだ!」


メールの送り主は佐々原 海斗(ササハラ カイト)だった。

海斗は私と元彼の共通の友だちだ。

海斗とは高校三年間同じクラスで、元彼の事にもよく相談に乗ってくれていた私にとっては一番仲のよかった男友だち。

そんな海斗は高校卒業後、他県の大学に進学してしまって其れ以来疎遠になってしまっていた。

最初の頃はメールを頻繁に交わしていたけれど、年月が過ぎるほどに連絡は途絶えて行った。

其の海斗からのメール。

驚くなという方が無理だ。


【久し振り、元気だったか凪子】

そんな言葉から始まった懐かしい人からのメールをドキドキしながら読んでいる内に、私はある一行に釘付けになった。


【康彦から凪子との事を訊いて驚いてメールした】


「はぁ?!康彦から訊いたって何よ!」

康彦というのは元彼の名前だ。


「何よ…康彦と海斗ってずっと交流があったの?!」

其の事実に驚いてしまった。

だって元彼から高校卒業後の海斗についての話は全く訊いた事がなかったから、つい私同様遠く離れた友だちとは疎遠になっていたんだとばかり思っていたから。


(男と女では友情の厚さが違うって事…なの?)


何故か其の事が寂しいなと思った私だった。

fl
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